キャンディ




 カタカタとキーボードを打つ無機質な音に支配されたセフィロスの執務室。
 ここ最近はミッションもなく、唯デスクワークをする日が続いておりセフィロスも下らない経費の計算等ばかりやらされていて些か退屈
 で不機嫌だった。


 「おーい、セフィロスー!」

 ノックもせずに執務室に入ってきたいつ見ても元気な子犬に、ノック位しろと言いかけたが何度言っても聞かない本人に今言っても
 無駄だろうと、苦情は子犬の飼い主にいうことにして一旦作業していた手を止め、僅かに溜息をつく。

 「なーに辛気臭い顔してんだよ。
  アンジールが呼んでるぜ?」

 仮にも上司の自分に向かって辛気臭いなど言えるのは世界広しと言えどもこいつくらいだろうな、と呆れる。

 「そうか、アンジールは何処に居る?」

 「ブリーフィングルームにラザード統括と一緒に居る」

 何か事件でもでもあったのか、とセフィロスは厄介ごとには巻き込まれたくはないと自然と目つきは険しくなる。


 「眉間に皺なんか寄せてんなよー。
  そうだ、これやるよ!」

 ザックスは制服のポケットをごそごそと探り、派手なピンク色の包み紙に包装されている小さな丸いものをセフィロスに有無を言わさ
 ず手渡す。

 「なんだこれは?」

 反射的に受け取ったセフィロスは掌に乗せられた大凡自分とは不釣合いなものを見て不思議がる。
 
 「何って、飴…。
  さっき受け付けのおねーちゃんに貰ったんだよ」

 疲れたときには甘いものが一番だぜ?と、ザックスはにっこりと笑う。

 「じゃあ俺先に行ってるからな!」
 言うと同時にザックスはバタバタと部屋を騒々しく出て行く。


 まじまじと自分の掌に乗っている飴を見ていると、それだけで口の中が甘味に犯されている気分になり半ば自分の視界から隠す様
 にコートのポケットの中に滑り込ませ、静かに執務室を後にする。







 ブリーフィングルームに向かう途中、一際豪華な扉の会議室の前を通ると一般の新羅兵二人がドアに背を向けマシンガンを肩に担
 いでピシッと立っている新羅では見慣れた光景を目にした。
 新羅兵の顔はマスクで殆ど見えないが、自分から見て左側のやや小柄な新羅兵からいつも感じる熱い眼差しで見つめられている
 事に気付き、歩みを其方に向ける。

 「クラウド、今日は警備の仕事か?」

 右側の新羅兵がセフィロスのいきなりの行動にぎょっとして慌てて居住まいを正しているのを尻目に、目の前の良く見知った少年兵
 に声をかける。


 「そうだよ、セフィロスは会議?」

 いきなり目の前に現れたセフィロスに驚くも、嬉しそうに笑いかけるがクラウドは今は仕事中だと思い、頬が緩むのをぐっと堪える。

 「いや…。
  お前が居たからつい寄っただけだ」

 その言葉を聞き、クラウドは軽く俯き恥かしそうにはにかむ。
 
 「セフィロス、俺の為に来てくれたんだ。
  嬉しいよ俺…」

 仕事中ということも忘れ、濁りのない美しい天然の蒼の瞳をキラキラと輝かせて自分をうっとりと見上げてくるウラウドを目の当たりに
 して、偶々通りかかっただけだとは言えなくなりそんな自分の気持ちを誤魔化すように、マスクに覆われた頭部を軽く撫でてやる。
 
 マスク越しでも解る程、クラウドは頬を真っ赤にさせ心底嬉しそうに微笑む。
 隣の新羅兵が引き攣った様に頬をひくつかせ、こちらから目を懸命に背けているのを知らない振りをして、セフィロスは自分を一心に
 慕うクラウドを微笑ましい気持ちで見ていたが、自分の当初の目的を思い出しクラウドの頭から手をはなす。
 途端、今までの甘い雰囲気が一転しクラウドはじっと拗ねたような目つきでセフィロスを見上げる。

 「クラウド…」
 言葉に詰まったセフィロスはポケットの僅かな膨らみに気付き、そっとポケットに手をやる。


 「目を閉じろ、クラウド」

 

 怪訝そうな顔をしたクラウドだったが、素直に従いそっと目を閉じる。


 ポケットから飴を取り出し、包み紙を開ける。

 中からは包み紙と同様、毒々しいまでのピンク色をした砂糖の塊が見える。

 それを薄く色づいた桜色の小ぶりの唇を割り、口の中に入れてやる。
 
 「んっ!」

 クラウドは突然唇に何か触れたかと思えば、口の中には少し硬い感触のものが入れられ慌てて目を開ける。
 
 「誰が目を開けて良いといった?」
 酷く落ち着いた、けれども何処か甘く響く声の命令にクラウドはすぐにまた目を閉じる。
 
 口の中に感じる甘い味…。
 
 

 クラウドが自分の口の中にセフィロスが入れたものがいちご味の飴だと解った時、
 「もう目を開けていいぞ」
 と、セフィロスからお許しが出た。


 「セフィロス、これ…!」
  
 目を開けるとセフィロスは既に歩き出しており、自分から遠ざかって行くセフィロスの漆黒のコートに包まれている背中に問いかける。

 「生憎俺はお前以外の甘いものが苦手でな。
  お前にやろう」

 ゆっくりと振り返り、それだけいうと足早にその場を後にする。

 
 
 ブリーフィングルームに向かうセフィロスの表情は、執務室に居た時とは打って変わって僅かに微笑を湛えていた。

 後方から聞こえるクラウドの絶叫を聞きながら…。




                        

                        



 セフィクラのつもりです。
 英雄大好きクラウド君です。
 セフィロスに嫌われたら舌噛み切ってしんでやるー!みたいなクラウド君が物凄く好みです(笑)
 一応、疲れたときは甘いもの(クラウド君)で気分転換という、しょーもないお話です。